ビル診断で見落とされる「法適合」チェックとは

建築基準法

シリーズ「そうちゃうかな、知らんけど」~劣化診断だけでは、本当のリスクはわかりません~

はじめに

先日、こんな相談を受けました。

「築35年のビルを所有しています。そろそろ大規模修繕を検討しようと建物診断を依頼しました。外壁や防水、設備の劣化状況は報告してもらったのですが、建築基準法に適合しているかどうかは調べていないと言われました。法適合のチェックは別途必要なのでしょうか」

答えは、必要です。

多くのビルオーナーの方が「ビル診断」といえば建物の傷み具合を調べる劣化調査を思い浮かべます。それ自体は正しいのですが、実はビルの状態を把握するにはもうひとつの視点が欠かせません。それが既存建築物の「法適合」のチェックです。

「ビル診断」には2つの視点がある

一般的に「ビル診断」と呼ばれるものは、主に物理的な劣化状況の調査を指します。

外壁のひび割れ、防水の劣化、配管の腐食、設備の老朽化など、「建物の傷み具合」を調べるものです。大規模修繕の計画を立てるために非常に重要な調査であり、ほとんどのビルオーナーが「ビル診断」と言えばこの劣化調査を想起されると思います。

では、なぜ劣化調査を行うのでしょうか。

その動機を突き詰めると、不動産価値の確認と保全にたどり着きます。建物の状態を正確に把握することで、適切な修繕計画を立て、資産価値の低下を防ぐ。劣化診断は、ビルという資産を守るための投資です。

ここで考えていただきたいことがあります。

ビルの資産価値を左右するのは、物理的な状態だけではない。

実はもうひとつ、資産価値に直結する要素があります。それが「法的な状態」——つまり既存建築物が建築基準法に適合しているかどうか、または、適合していない部分(既存不適格)がどこにあるのか、という情報です。

物理的にどれだけ美しく修繕されたビルでも、法的な問題を抱えていれば、売却時の価格、融資の可否、テナント誘致の自由度に大きく影響します。劣化診断が資産価値を守るための調査であるならば、法適合のチェックも全く同じ目的を持った、同等の価値がある調査なのです。

法適合を見落とすと何が起きるのか

劣化調査だけでは見えない法的なリスクを、具体的なケースで見ていきます。

ケース①:大規模修繕や用途変更手続き、確認申請のスケジュールが狂う

大規模修繕や新たなテナント誘致に伴う用途変更を進めようとしたとき、その工事に確認申請が必要になる場合があります。この時、建物の法的な状態を正しく把握していないと確認申請に進めない場合があります。

既存建築物の確認申請の場合、現状の法的な状態を報告し、適法な状態であることを示す必要があります。法的な状態を把握しないまま計画を進めると、工事の直前で「確認申請が必要だった」と発覚し、申請手続きのためにスケジュール全体を組み直さなければならなくなります。テナントとの契約や資金計画にも影響が及びます。事前に法適合の状況を把握しておくことで、適切なスケジュールを最初から立てられるのです。

【関連記事】一室だけの用途変更。なのにビル全体を調査?https://www.imknot.co.jp/blog/?p=64

ケース②:売却時に買い手がつかない・価格を下げられる

既存不適格の状態を把握しないまま売りに出すと、買い手側の調査(デューデリジェンス)で法的な問題が発覚します。融資がつかない、大幅な価格交渉を迫られる、最悪の場合は取引自体が破談になる。売却を検討する段階になってから慌てて調べるのでは遅いのです。

これらはいずれも、劣化調査では発見できないリスクです。そして、いずれも不動産の資産価値を直撃するリスクでもあります。

法適合チェックとは何を調べるのか

では法適合チェックでは具体的に何を調べるのか。主な調査内容を整理します。

①確認済証・検査済証の有無

建物が確認申請を経て適法に建築されたかどうかの確認です。書類が見当たらない場合でも、行政の記録から確認できる場合があります。

②現行法規との適合状況

現状において建築当時の法規と現行法規を比較し、既存不適格の有無等を確認します。どこが適合しているのか、適合していないところは既存不適格なのかを正確に把握います。それが、将来の修繕・改修・売却のすべての場面で判断材料になります。

【関連記事】既存不適格の見つけ方~その1~https://www.imknot.co.jp/blog/?p=22

③過去の増改築・用途変更の履歴

申請を経た工事か、未申請の工事かを確認します。過去のテナントが無届けで内装工事や用途変更を行っているケースは珍しくありません。

劣化調査が「建物の今の傷み」を調べる。法適合チェックは「建物の法的な履歴と現状」を調べる。調べるものが根本的に違うのです。

あなたのビルの法的リスク——セルフチェックリスト

まず簡単に「法適合」チェックしてみてください。

□ 確認済証が手元にある
□ 検査済証が手元にある
□ 竣工当時の図面が保管されている
□ 建築後に用途を変更したテナントを把握している
□ 増築・改修工事の履歴と確認申請の記録が一致している
□ テナントが無届けで内装工事を行っていないか把握している
□ 既存不適格の箇所を把握している
□ ビル全体の用途構成と各室の面積を整理できている
□ 売却・活用の際に必要な法的書類を説明できる

チェックできない項目が3つ以上ある場合は、法適合状況の確認をお勧めします。

特に「売却・活用を検討する可能性がある」「今後10年以内に大規模修繕の予定がある」という方は、早めの確認が有効です。問題が見つかったとしても、時間があれば対処の選択肢は多くあります。直前になって発覚することが、最もコストの高い事態を招きます。

劣化診断と法適合チェックは補完関係

誤解のないようにお伝えしておくと、劣化調査が不要だと言っているのではありません。

劣化調査と法適合チェックは、どちらか一方ではなく両方必要なものです。

劣化診断は「これから何を修繕すべきか」を教えてくれます。法適合チェックは「その修繕をする前に確認しておくべきことはないか」を教えてくれます。

大規模修繕の前に法適合を確認しておけば、修繕計画そのものが確認申請の必要な工事に該当するかどうかが事前にわかります。コストとスケジュールの見通しが格段に正確になるのです。

さらに、コスト面でも大きなメリットがあります。劣化調査で把握した修繕すべき箇所と、法適合チェックで見つかった是正すべき箇所を、一度の工事でまとめて改善できる場合があるのです。修繕工事と法適合の是正工事を別々に行えば、その都度の足場設置や工事の段取りが二重にかかります。両者を同時に把握し、一体の工事として計画できれば、工事全体のコストを抑えられる可能性があります。

不動産価値の確認と保全という目的は、劣化調査も法適合チェックも同じです。建物の資産価値を本当に守りたいなら、物理的な状態と法的な状態、その両方を把握しておくことをお勧めします。

ビルの法適合チェックについて詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。セルフチェックリストで気になる項目があった方は、まずはご相談だけでも歓迎です。https://www.imknot.co.jp/contact.html

コメント