建築協定という、もうひとつのルール

建築基準法

シリーズ「知らんけど」 ~確認済証は交付されたのに、「計画を変更してください」と言われた

はじめに

先日、こんな相談を受けました。

「土地を購入して住宅を計画し、確認済証も無事に下りました。ところが着工前に近隣の方から『この地区には建築協定があるので、協定書に適合するように計画を変更してください』と言われました。確認は下りているのに、どういうことでしょうか」

確認済証が下りたなら、もう建てられるはずではないのか。そう思うのが自然です。しかしここには、建築基準法の中に潜む「もうひとつのルール」が関係しています。それが建築協定です。

建築基準法の中に、「建築協定」という別の世界がある

建築基準法は本来、国が定めた基準を行政が全国一律に適用する法律です。いわばトップダウンの構造を持っています。

ところが、建築協定だけはこの構造から少し外れています。

建築協定は、その区域の土地所有者などが自分たちで話し合ってルールを定め、それを特定行政庁が認可するという仕組みです。国や行政が上から課すのではなく、住民が自らの手で地域のルールをつくる。トップダウンの法律の中に、ボトムアップの仕組みが埋め込まれている。少し大げさに言えば、建築基準法の中に別の世界があるようなものです。

協定で定められる内容は幅広く、建築物の敷地・位置・構造・用途・形態・意匠・建築設備に関する基準などに及びます。建築基準法よりも厳しい基準を定めることができるのが特徴です(ただし法の規制を緩めることはできません)。なお、建築協定を結べるのは、市町村が条例で定めた区域に限られます。

「建築協定」の制限内容は、確認申請では審査されない

ここが今回の相談の核心です。

建築協定は、建築確認の際に審査される「建築基準関係規定」には含まれていません。つまり、確認申請の審査対象ではないのです。

そのため、たとえ建築協定の内容に反する計画であっても、建築基準法などの規定に適合していれば、確認済証は下ります。冒頭の相談者が「確認は下りたのに」と戸惑ったのは、まさにこの構造によるものです。確認済証が下りたことと、建築協定に適合していることは、別の話なのです。

では建築協定は誰が運用しているのか。行政ではなく、その協定の運営委員会が担っています。協定に反する建築があった場合の是正も、行政指導ではなく、協定当事者間の民事の問題として扱われます。

「確認が下りたのだからすべてクリアだ」と考えていると、思わぬところでつまずくことがあります。

土地を買っただけで、当事者になる

建築協定について、もうひとつ知っておきたい特徴があります。

建築協定は当事者の合意によって成立しますが、認可の公告後にその区域内の土地の所有者などになった人にも、協定の効力が及びます。これを承継効といいます。

つまり、自分では協定に同意した覚えがなくても、その土地を取得しただけで協定に拘束されることになります。私人間の合意でありながら、物権的な効力を持つ。これは法的にも珍しい存在です。

だからこそ、土地を購入する前に、その土地に建築協定がかかっていないかを確認することが極めて重要になります。知らずに購入して、後から「計画を変更してください」と言われる。冒頭の相談は、その典型的な例だったといえます。

一人協定に残る、まちづくりの意気込み

建築協定には、少し不思議な仕組みがあります。「一人協定」です。

通常、協定は複数の関係者の合意で成立します。ところが建築基準法76条の3には、土地所有者が一人しかいなくても建築協定を締結できる制度が定められています。

これは主に、住宅地を開発する分譲事業者が、宅地の分譲を始める前にあらかじめ協定を結んでおくために使われます。事業者が単独で協定を定め、「建築協定付き住宅地」として販売する。区画を購入した人たちは、その協定の当事者になっていくという流れです。

この制度の背景には、かつてのニュータウン開発などで芽生えた理念があります。良好な住環境を、行政に頼るのではなく住民自身の手で守り育てていこうという考え方です。相手がまだいない段階で「協定」を結ぶという、一見すると奇妙なこの仕組みには、住民主体のまちづくりを目指した当時の意気込みが、今も制度として残っているのです。

建築協定は単なる規制ではなく、地域を自分たちで良くしていこうという意志の表れでもありました。

「自動更新」という現代的課題

最後に、建築協定が抱える現代的な課題に触れておきます。

建築協定には有効期間が定められています。しかし多くの協定書には、期間満了時に特段の申し出がなければ自動的に更新される、という規定が置かれています。

この自動更新の仕組みが、時間の経過とともに難しい状況を生むことがあります。

世代交代が進むと、その地区に建築協定が存在すること自体が住民に知られなくなっていきます。ところが協定書は自動更新によって効力を持ち続ける。実態としては形骸化しているのに、法的には生き続けているという状態が起こり得るのです。

しかも、協定を変更するにも廃止するにも、原則として関係する住民の同意が必要です。所有者の高齢化や所在不明などによって、その同意を集めること自体が難しくなっているケースもあります。かといって協定を守らなければ、民事上のトラブルに発展するリスクもある。動かすことも、無視することも難しい、という状況です。

こうした課題に対して、近年は一部の地区で協定を見直す動きも出てきています。協定を廃止して別の手法へ移行するといった例もあります。

いずれにしても、土地や建物を扱う際には、その土地に建築協定がかかっていないか、かかっているならどのような内容かを、必ず確認しておくことが大切です。確認済証が下りたから大丈夫、とは限らないのです。

土地や建物にかかる法的な制約の確認について、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。https://www.imknot.co.jp/contact.html

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