はじめに
先日、こんな相談を受けました。
「コインランドリーの出店を計画しています。用途地域を調べたところ、サービス店舗であれば出店できる地域でした。ところが行政に相談したら『これは工場になります』と言われてしまいました。同じコインランドリーなのに、なぜでしょうか」
同じ施設なのに、行政が変われば用途の判断も変わる。今回はコインランドリーを題材に、取扱いが定まっていない用途にどう向き合うかをお話しします
原則はサービス店舗、しかし例外がある
コインランドリーは、実務上、クリーニング取次店や学習塾などと同じ「サービス業を営む店舗」として扱われるのが一般的です。主として近隣住民に対するサービスを提供する施設であり、地域の生活を支える性格を持つからです。
ただし、これは絶対のものではありません。
複数の洗濯機による騒音、24時間営業といった営業形態、それに伴って不特定多数の人や自動車が集まり散っていくこと。こうした要素によって継続的な騒音が発生し、近隣の居住環境を害するおそれがある場合には、「工場」として扱われることもあります。
原則はサービス店舗。しかし居住環境を害するおそれがあれば工場に振れる。 コインランドリーの用途判断は、こうした構造になっています。
行政による違いは、どこに重心を置くかの差
この構造を踏まえると、行政ごとの取扱いの違いも見えてきます。
茨城県の取扱集では、コインランドリーはサービス業を営む店舗として取り扱い、洗濯機等を設置している室は作業場として扱うと整理されています。愛知県の例規集も同様に、サービス業を営む店舗の分類に位置づけています。
一方で三鷹市は、複数の業務用洗濯機を設置する場合は原則として工場に該当するものとして取り扱うとしています。その結果、低層住居専用地域や中高層住居専用地域では建築できず、既存建物の用途変更も同様だと明示されています。近年のコインランドリーが大型の業務用機器を多数並べる形態になっていることを踏まえ、住居専用地域にそぐわない用途とした運用と見ることもできるでしょう。
同じ構造の中で、どちらに重心を置くか。その差が結論の違いとなって現れているのです。
住居専用地域では、そもそも動力使用が想定されていない
ここで、用途地域の制度そのものに立ち返って考えてみたいと思います。
低層住居専用地域や第一種中高層住居専用地域は、住環境を守ることを最優先に据えた地域です。そこに建てられる店舗については、床面積の上限が定められているほか、作業を伴うものについては原動機の出力や作業場の面積に厳しい制限がかかります。
裏を返せば、これらの地域では、一定以上の動力を使った作業を行うこと自体が、実質的に想定されていないということです。住宅が並ぶ環境の中で、機械を動かして継続的に作業を行う施設は、そもそも馴染まないという考え方が制度の根底にあります。
数値による制限は、それ自体が目的なのではありません。その施設が住環境にどの程度の影響を及ぼすかを測るための、いわば物差しです。騒音、振動、排気。そうした影響の大きさを、出力や面積という測りやすい数値に置き換えているにすぎません。
コインランドリーが工場として扱われ得る理由も、ここにあります。基準となる数値に収まっているかどうかという形式だけでなく、営業形態を含めた実態として継続的な騒音が生じ、住環境に影響を与えるかどうかが問われているのです。
そもそも「原動機」とは、何を指すのか
もうひとつ、実は明確でない論点があります。
条文は原動機の出力について数値を定めていますが、何をもって原動機とするのかは、条文に書かれていません。
たとえばパソコンにも冷却ファンのモーターが入っています。自動ドアにも、換気扇にも、レジ周りの機器にもモーターは使われています。これらをすべて原動機として数えるのか。実務上は、その施設の業務に用いられる主たる動力設備を対象とする理解が一般的ですが、条文自体がその線引きを示しているわけではありません。
以前、「避難上有効な」といった文言を取り上げた記事で、条文に書かれていない部分が告示や行政の取扱いによって埋められている構造をお話ししました。原動機の捉え方も、これと同じ構造にあります。条文には数値があるのに、何を数えるかは書かれていない。その空白を、解釈が埋めているのです。
コインランドリーについても、洗濯機のなかには原動機(モーター)の使用はもちろんあります。洗濯機が複数台ある、または大型洗濯機があるとなると、原動機の出力合計が住居専用地域にそぐわないこともありえます。
この点も、よく考慮することによって、同じコインランドリーでも、どのように扱うかが違ってきます。
取扱いが示されていない行政と、どう協議するか
では、コインランドリーの取扱いを公表していない行政に相談するとき、どう臨めばよいのでしょうか。
まず、他市の取扱いを前例として持ち出すことは、あまり有効ではありません。行政は他市の判断に拘束されないからです。「よそではサービス店舗として扱われています」と伝えても、「うちはうちで判断します」と返されるだけでしょう。
有効なのは、判断の枠組みに沿った材料を、こちらから整理して提示することです。
用途判断において、前例や一般解を踏まえて判断するか、実態的な用途で判断するか、行政側のスタンスにもよりますが、示すべき材料もそこに関わるものになります。設置する機器の台数と原動機出力。作業場として扱われる部分の床面積。営業時間と、想定される来店の頻度や時間帯。利用者は近隣住民が中心か、自動車での来店が多いのか。駐車場の位置と隣接する住宅との関係。騒音や排気について、どのような対策を講じているか。
こうした事実を整理して示せば、行政は判断の拠り所を得ることができます。協議において、答えを教えてくださいという場にするのではなく、判断の材料を共に組み立ててつつ設計者の考えを伝える場にすることが大切です。 取扱いが定まっていない案件では特に、こちらから材料を提示できるかどうかで、話の進み方が大きく変わります。
そして、この姿勢は結果的に自分たちを守ることにもつながります。趣旨を理解しないまま数値だけを根拠に「基準内だから問題ないはずだ」と進めてしまうと、後になって判断が覆ったときに立て直しが効きません。なぜその判断になったのかを協議の過程で共有しておけば、計画の前提が揺らぐリスクを減らすことができます。
まとめ
今回のポイントを整理します。
コインランドリーの用途は、原則としてサービス店舗に該当しますが、導入設備、騒音、人・自動車の集散によって居住環境を害するおそれがある場合には、工場として扱われることもあります。行政による取扱いの違いは、どこに重心を置くかの差から生まれています。
住居専用地域では、そもそも一定以上の動力を使った作業を行うこと自体が想定されていません。数値による制限は、住環境への影響を測るための物差しであって、それ自体が目的ではないのです。そして原動機として何を数えるのかは、条文には書かれていません。
無人店舗、無人販売、個室型のサービス業。新しい業態はこれからも次々と現れます。そのたびに「答え」を探すのではなく、条文が何を守ろうとしているのかを理解し、目の前の現実をそこに当てはめて考える。その積み重ねが、行政との建設的な協議を可能にし、結果として自分や会社、関係する人たちを守ることにつながっていくのだと考えています。
新しい業態の用途判断や、行政との事前協議についてお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
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